三時間半もかかって、ようやく「マタハリ・ビーチ・リゾート」に到着。椰子の実に入ったウェルカム・ドリンクがサーブされ、ヴィラに案内された。「マタハリ」はインドネシア語で「太陽」の意味らしい。広大な庭園はブゲンビリアやブルメリア、ハイビスカスが咲いていて花の香りに包まれる。ヴィラのドアには神話の彫刻が施され、美しい庭にはシャワーまであった。

 早速、夕食に行くとレストランには三組のドイツ人だけ。日本人は一人もいない。ドイツ人のオーナーが挨拶にくると、母はドイツ語で挨拶をした。その昔、三菱商事ハンブルグ支店長だった祖父の手伝いで二年間ドイツに滞在しており、(その時、『マンボウ航海』をしていた父と知り合った)、ドイツ語が話せるのだ。

 翌朝、鳥のさえずりで目覚め、散歩に出る。キラキラと朝露に濡れた樹木の緑が美しい。青い空、タヒチのような切り立った山々が聳え、地上の楽園だ。「ガーデンツアー」に参加したり、プラキ寺を馬車で見学した後、スパに行くと古代宮殿のような大きな建物だった。

「わあー、すてき!

 私達の部屋には庭園まであり、大理石のジャグジがある。一人に対して、二人のセラピストによる「フォア・ハンド・マッサージ」は至福の時間。三時間のコースで九十八ドルだった。

 このホテルは、バリのアマンプロやフォーシーズンズホテルでさえも最高が銀賞だというのに、トリヒタ・カラナ賞のゴールド部門(金賞)を三年連続で受賞している。この日の宿泊者十五名に対し、従業員百二十八人。パティシエにパン職人、庭師もいて、至れり尽くせり。それでもヴィラの宿泊は百九十四ドルなのだ。

「キムタクと工藤静香さんの家族にピッタリかも!

 海ではシュノーケリングやダイビングができて、テニスコートや卓球台、子供用プールやゴルフ場もあり、人目を気にせず、子供達とエンジョイできるのだ。

 最後の晩、元気な母は、

「ねえ、バリのどこかで馬に乗れないかしら?

 と、突如言い出した。

六十八歳、恐るべし。「マカ」を飲んでいるせいだろうか。

 母の願いを叶えてあげようと、翌朝、乗馬クラブに行った。波しぶきのかかる海岸線をジャバジャバと馬で歩き、近くの村やバナナ農園を歩いて、一時間(二十七ドル)の乗馬を楽しんだ後、ホテルを出発。デンパサールにある日本国総領事館の駐在官事務所に向かった。

「世界の果てに『マカ』を配る」ためである。

 インドネシア風の赤い屋根には三人のガードマンがいて物々しい警備。玄関には菊の御紋がキラキラ輝く。

 ところが、領事館の中は普通の事務所。部屋の奥には応接セットがポツンと置かれ、周りにはキャビネや段ボール箱があるだけで、装飾品もない。税金の無駄遣いゼロ。パチパチ!

S領事とE副領事は穏やかで話が面白く、「今、日本で大人気の『マカ』です!」とお渡しすると、とても喜んでくださった。

 S領事と話をしている最中に、「十三歳年下の妻がバリに行ったきり帰国しないので探して」という名古屋の男性から電話があったりで大忙し。大変だなあ。

「ここは、よろず相談所みたいなんですよ()

 バリの人と結婚する日本人女性の相談も多いらしい。

 領事館を出発し、デンパサール空港に到着し、JALカウンターに行くと、パスポートが入ったハンドバッグを手荷物検査の場所に置き忘れてきたことに気づいた。大パニック!!

「誰かに取られたかも!!

猛ダッシュで戻ると床の上にポンと置かれているのを発見!慌ててバッグを持っていこうとすると空港職員から「お土産は?」と日本語でせがまれた。

 ヒョェ!バリに前回きた時も同じことを言われた。チップの意味なのだ。

 日曜日の朝、家に帰ると、すぐに父の部屋に行った。

「パパ、ただいま!一人で大丈夫だった?

「ユカ、ママを連れていってくれて有難う!

 父は嬉しそうに答えた。

(週間新潮84日号) 

 

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